2025年4月ウマと関わるヒトにまつわる自然科学・社会科学研究を推進するためにエクワイン・サイエンス・コンソーシアムを設立しました。
設立趣旨 - バイオメカニクスから社会課題まで
ウマは、紀元前数千年の昔から家畜化され、人類の生活に深く関わってきました。世界各地では現在も農耕や輸送、運搬の手段として飼養されていますが、先進国では主に乗馬、競技、競走馬など、農耕以外の用途が中心となっています。
慶應義塾大学SFC研究所では、コンソーシアム代表者である仰木が、日本中央競馬会競走馬総合研究所との共同研究を通じて、10年以上にわたり競走馬、特にサラブレッドのバイオメカニクス、さらに騎乗者に関する研究に取り組んできました。「人馬一体の科学」を掲げ、ウマとヒトの運動を総合的に理解する試みを進めてきました。
こうした研究の中で、私たちはウマにまつわる自然科学の未解明領域にとどまらず、アニマルウェルフェア(動物福祉)や、動物との関わりがもたらすヒトのメンタルヘルスといった社会的課題の存在にも注目するようになりました。
ウマは、ヒトが騎乗したまま高速で走行できる唯一の四足動物です。その多関節構造を巧みに制御して方向転換や歩様転換を行う運動機構は、ロボティクス分野においても高い関心が寄せられるテーマです。ウマの四肢制御に関するバイオメカニクスの研究は、こうした構造の物理的原理を明らかにし、工学的応用へと展開する可能性を秘めています。
また、競馬騎手や乗馬騎乗者といった「騎手」たちは、目的や種目に違いはあれど、いずれも高度な身体能力と技術を要するアスリートです。にもかかわらず、一般のスポーツに比べて、彼らに対するスポーツ科学の応用は限られており、研究の余地が大きく残されています。
私たちは今後、ウマとヒトの双方を対象とし、科学的理解の深化と社会的課題の解決を両立する研究に取り組んでまいります。
<想定される研究領域>
- 競走馬としてのサラブレッド,馬場馬術・障害馬術等におけるウマのバイオメカニクス,生理学等に関わる基礎研究や観測技術の開発,さらには,四足歩行動物であるウマの高速疾走メカニクスのロボティクスへの応用
- ウマの怪我・疾病・健康管理にまつわる基礎研究
- 騎乗者やウマ自身が身につける装具(蹄鉄,鎧,鞍等),安全具(プロテクター,ヘルメット,防護服等)とデジタルファブリケーションに関わる研究
- ウマとヒトとの関わりによるメンタルヘルスにまつわる研究
- アニマルウェルフェアを目指した引退馬の利活用 など
コンソーシアム制度について
コンソーシアムとは慶應義塾大学SFC研究所と複数の外部機関によって実施される共同研究の一つです。大学が中心となり研究テーマを設定し、個人や企業、地方自治体と協力し大規模な研究課題に取り組む共同研究の形態で、「相互利益」を前提に従来の一対一の共同研究に比べ広範囲で総合的な研究推進が可能です。積極的な情報共有が推奨されますが、知的財産が関わる場合は個別の共同研究契約を結び、コンソーシアムの活動とは独立して研究を進めることが可能です。
Equine Science Consortiumは以下の活動を計画しています。
- 研究情報交換の場:現場の悩み現場の悩みや現行テクノロジーの応用、ヒト研究のウマへの応用、研究成果がどのように社会に貢献するか、など活発な議論を行います。
- 議論の場:年2回程度の公式情報交換会(対面)、2ヶ月に1度程度の情報交換会(対面、オンラインのハイブリッド)を行います。
- 共同研究契約:共同研究を行い、知的財産には十分配慮した上での研究成果の共有します。
コンソーシアム代表である仰木裕嗣研究室には以下のような運動計測、生理学計測に関する各種機材を揃え、研究体制を整えています。
- 運動計測
- 光学式モーションキャプチャ
- 高速度カメラ
- 慣性センサ
- 生理学計測
- 筋電センサ
- その他
- (ヒト)生体計測全般を網羅しています
学内メンバー
- 仰木裕嗣 政策・メディア研究科教授 / 代表・ウマと騎乗者のバイオメカニクス研究
- 島津明人 総合政策学部教授 / ウマとヒトとの関係性におけるメンタルヘルス研究
- 中嶋亮 経済学部教授 / 馬術競技における競争行動の行動経済学的研究
- 石塚辰郎 SFC研究所上席所員 / ウマと騎乗者のバイオメカニクス研究
学外メンバー
- 宮本直人 東北大学未来科学技術共同研究センター准教授 / GNSSセンサの競走馬調教への応用研究
- 北岡祐 神奈川大学人間科学部教授 / 乳酸を中心としたエネルギー代謝に関する研究
- 高橋謙也 Virginia Polytechnic Institute and State University / 骨格筋代謝適応研究
コンソーシアム年会費
本コンソーシアムの会計年度は4月から翌年3月です。いずれも消費税込みです。
会員種別 | コンソーシアム年会費 |
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企業会員 | 55万円 |
中小企業会員 (中小企業基本法で定義される中小企業および小規模企業者に該当する法人または団体(上場企業をのぞく) | 22万円 |
アカデミー会員 (教育・研究機関、公的研究機関等) | 無料 ただし、共同研究に着手する際に当該共同研究分担者になる場合は秘密保持契約の締結が必要です |
特別会員 (府省庁等日本国政府機関及び地方自治体) | 無料 |
お問い合わせ・アクセス
慶應義塾大学SFC研究所Equine Science Consortium事務局
〒252‐0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
仰木裕嗣研究室
Email: equ_sci[at]sfc.keio.ac.jp